大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和33年(ラ)95号 決定

抗告人 辻川金治郎 外八名

訴訟代理人 毛利与一 外一名

相手方 農林大臣 赤城宗徳

指定代理人 今井文雄

主文

原決定を取り消す。

本件移送の申立を却下する。

理由

一、抗告代理人は、第一次的に「原決定を取り消す。」との裁判、予備的に「原決定を取り消す。本件を京都地方裁判所に移送する。」との裁判を求め、その理由として主張するところは別紙(一)のとおりである。

二、相手方指定代理人は「本件抗告を棄却する。抗告費用は抗告人等の負担とする。」との裁判を求め、その理由として主張するところは、別紙(二)および(三)のとおりである。

三、右に対する当裁判所の判断は、次のとおりである。

本件は、抗告人等において、相手方農林大臣が昭和三〇年一〇月二六日付で定めて公告した国営愛知川土地改良事業計画に重大明白な瑕疵があるものとして、その無効の確認を求めたものであるが、これに対して、原裁判所は、かような行政処分の無効の確認を求める訴は、その性質上、単純に公法上の権利関係の確認を求める当事者訴訟と解すべきではなく、抗告訴訟に準ずべきものとして取り扱うことが至当であると解したうえ、行政事件訴訟特例法第四条の規定の準用により、本訴は、相手方である行政庁農林大臣の所在地の裁判所である東京地方裁判所の専属管轄に属するものであるとして、同裁判所に移送する旨の決定をしたものである。

そして、行政処分の無効の確認を求める訴が性質上当事者訴訟に属せず抗告訴訟に準ずるものとした原裁判所の右判断は、その限りにおいては、正当なものであるといわなければならない。けだし、この種行政処分無効確認訴訟については、わが実定法上なんらの規定がない関係上、そもそもかような訴が許されるかどうか、およびこれが許されるものと解する場合その性質いかんについて異論をまぬがれがたいところであるけれども、行政処分に一定の瑕疵の存する場合にその取消を求める訴としての抗告訴訟には、出訴期間に関する定めが存するところ、その期間の徒過その他の事情から右訴訟を提起しなかつた場合においても、当該行政処分の瑕疵が重大かつ明白なものであるかぎり、これにより権利を侵害された者に対しては、なお、右処分の違法を主張して、違法な権利侵害の危険を除去する手続を認めることは、国民の権利保護上必要なものとしなければならないのであつて、ここに行政処分無効確認訴訟という訴訟類型を認めるべき根拠が存するのであるが、かような観点からするときは、この種の訴は、公法上の権利関係に関する当事者訴訟の性質を有するものではなく、行政処分の違法性を確定してこれによる権利侵害の危険を除去することを内容とする点において、抗告訴訟に準ずる性質を有するものと解されるからである。

なお、行政処分の瑕疵が重大かつ明白である場合には、これにより権利を侵害された者は、右のような意味における無効確認訴訟を提起することができることとは別に、その無効なることを前提問題として、現在の法律関係の確認等を求める訴を提起することも許されないわけではないと解されるのであつて、そのような訴が当事者訴訟に属することは、明らかであるが、本訴は、請求の趣旨からしても、また被告が国でなく行政庁たる農林大臣として提起されている点からも、かような趣旨の訴と解することはできない。

以上に判示したとおり、本訴は、抗告訴訟に準ずる性質を有するものであるから、本件の手続には、性質に反しない限り、行政事件訴訟特例法の関係規定を準用すべきものであつて、同法第四条の規定も、その例外をなすものではない。ただ、その準用については、一の土地管轄を定めた規定というかぎりの趣旨において準用し、その管轄を専属管轄とする点については、準用すべきでないと解するを相当とする。けだし、訴訟法上、専属管轄の定めは、本来、特別の公益上の必要の存する場合に限り認められるべきものであるが、行政処分の違法性を主張してこれによる権利侵害の除去を求める訴については、その管轄を専属管轄としなければならないような公益上の必要は、認めがたいばかりでなく、たとえばこれを権利侵害の行われた地の専属管轄とするならばともかく、行政事件訴訟特例法第四条の規定のごとく、当該行政処分をした行政庁の所在地の裁判所の専属管轄とするときは、訴訟手続上、当事者の一方たる行政庁を不当に有利ならしめ、その反面、行政処分の違法性を主張してこれによる権利侵害の除去を求める当事者の立場を著しく不利なものとし、場合によつてはその出訴を事実上困難なものとし、ひいては、国民の権利保護に欠けるおそれを生じないでもないし、さらに行政庁の活動が、通常、各地に散在する下級行政庁の組織的活動を前提とし、その協力補佐のうえに行われているものであるばかりでなく、行政庁を当事者とする訴訟の追行について法律上当該行政庁と協力すべき地位にある法務大臣の所部の職員は、全国各地に配置されている点をもあわせ考察すると当事者たる行政庁じたいのがわに立つて考えても、その処分の効力を争う訴の管轄を、当該行政庁の所在地の裁判所の専属管轄とすることは、譲歩しがたいような性質を有するものということはできず、事案によつては、他の裁判所の管轄をも認めることが、証拠蒐集等の関係上、かえつて訴訟経済ともなり、当事者の利益にも応ずることとなる場合がないとはいえないのである。

かような観点からするときは、抗告訴訟につき専属管轄を定めた行政事件訴訟特例法第四条の規定じたいの当否が問題であつて、立法論としては、これを任意管轄とすることが考慮にあたいするが(行政事件訴訟特例法改正要綱試案第十二および右試案の要点説明の四参照)、解釈上も、その適用範囲をできる限り制限して解するのを相当とする。しかして、行政処分無効確認訴訟が認められる場合は、行政処分の瑕疵が重大かつ明白な場合であるから、処分行政庁の利益は、一般の抗告訴訟より一そう強い意味において、侵害をうけた権利者のまえに譲歩されなければならないし、また、かような場合に、右処分の無効を前提として現在の法律関係の確認等を求める訴としての当事者訴訟も、提起することができないわけではないと解せられるところ、かような訴は、もとより、それぞれの法律関係に応じて定められた裁判所の管轄に属するのであるから、この点よりするも、行政処分無効確認訴訟の管轄を専属管轄と解すべきいわれはなく、行政事件訴訟特例法第四条の規定は、管轄の専属性の点を排除したうえ、行政処分無効確認訴訟に準用すべきである。

従つて、本訴について、被告である行政庁農林大臣の所在地の東京地方裁判所の管轄は、任意管轄というべきである。ところで本訴は、訴状によると、国営愛知川土地改良事業計画の効力を争うものであり、該計画は、滋賀県神崎郡永源寺町を貫流する愛知川の用水工事に関するものであるから、不動産に関する訴であつて、民事訴訟法第一七条の規定により、本件不動産所在地の裁判所たる原審大津地方裁判所にも管轄権があるものというべきである。

以上のとおりであるから、本件訴訟が東京地方裁判所の専属管轄であるとして原審の管轄を認めず、これを東京地方裁判所に移送した原決定は、不当であつて、取消を免れず、本件移送の申立は、却下すべきである(なお、抗告人は、移送の申立が原審口頭弁論において陳述されていない旨主張するが、移送の申立は、書面でもすることができ、これに対する裁判は、口頭弁論を経なければすることができないものではないから、この点に関する抗告人の主張は、理由がない。)。

そこで民事訴訟法第四一四条、三八六条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 沢栄三 裁判官 木下忠良 裁判官 寺田治郎)

別紙(一)

抗告代理人の抗告の理由

一、抗告人等の、本件における本案の請求の要旨は、原決定の理由に摘示せられたところと同様である。この本案につき、原決定は、相手方が管轄を争うにより管轄の点につき判断する、として前記移送決定をせられたものである。

二、ところで、まずだいいちに、相手方が、管轄の点につき争う旨を原決定をなした裁判所に対し陳述したという事実はない。尤も相手方提出の昭和三十二年四月三十日附移送の申立と題する書面中には、管轄を争う旨の記載があり、この書面に基き準備手続において受命裁判官に対し陳述したという事実はあるが、該準備手続の結果は未だ口頭弁論において陳述されてはおらず、他に裁判所に対して管轄違を申し立てた事実は何ら存しない。

従つて、相手方が管轄を争うにより判断するとしてなされた原決定は、少くともこの点において違法たるを免れない。

三、仮に右主張が理由ないとしても、本件における本案の請求は、原決定も指摘するとおり、行政処分の無効確認を求める訴で、行政事件訴訟特例法第二条にいわゆる「行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める訴」(いわゆる抗告訴訟)でないことは洵に明らかである。従つて同法第四条もまた適用の限りでない。原決定は準用を云々するけれども、法的安定性の見地からいつて、文理上明らかに適用の余地のない規定は、それを準用することが、その事案の性質に反せず、かつそれを準用しなければ解決が極めて困難である場合を除いては準用の名において安易に援用さるべきものではない筈である。そうだとすれば、本件のように、判例によつて当該行政処分をなした行政庁を被告とすることが認められているというだけで、本来は当事者訴訟である行政処分無効確認の訴においては、行政事件訴訟特例法第四条を簡単に準用すべきでなく、その行政処分が不動産に関するものであり、従つて本案が「不動産ニ関スル訴」たる性質を有する限り、同法第一条、民事訴訟法第十七条により、「不動産所在地ノ裁判所」、即ち大津地方裁判所が管轄権を有するものといわねばならない(有斐閣、行政事件訴訟特例法逐条研究二五三頁以下)。またかように解し、任意管轄を広く認めることが、無効は何時如何なるところでも主張しうるとする考え方の趣旨にもそうものというべきである。

四、仮に以上の主張のすべてが理由なく、行政事件訴訟特例法第四条の適用があるものとしても本訴は、少くとも京都地方裁判所に移送さるべきものである。その理由は以下の通りである。

五、農林省設置法第九条は、農地局の所掌事務を定め、同第三十五条に、「本省に、左の地方支分部局を置く。」と規定し、「農地事務局」を挙げている。その上で、同第三十六条に、「農地事務局は、本省の所掌事務のうち、左に掲げる事務を分掌する。」と規定し一乃至十に分つて、その事務内容を分別して定めているのである。右第三十六条に定める農地事務局の事務内容中土地改良事業に関しての定めは、三、四、七、八、九、十、である。そして右所定の各事務内容は、第九条によつて本省の農地局の事務内容としてそれぞれ分別規定されているところと全く同一であり、その文字的表現も逐一同一である。すなわち第九条と第三十六条とを彼此対照すると次ぎの通りである。

第九条 第三十六条

四、   三、

五、   四、

十一、   七、

十二、   八、

十三、   九、

十四、   十、

なお、第三十七条には、「農地事務局の名称、位置及び管轄区域は、左の通りとする。」と規定し、「京都農地事務局」(名称)を京都市(位置)におき、岐阜県、愛知県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県(管轄区域)の九府県を管轄させている。

六、そうであると、農地事務局は、農地局と同一内容の事務を処理しているのであり、本省の農地局と別個に、「地方支分部局」として農地事務局を設置するのは、同一内容の事務でも、当該地方に関係する事務は、当該地方の農地事務局において処理することが、行政目的達成の便宜に適することを配慮したものである。

七、農林大臣は「農林省の長」(第二条)として前記一切の事務を統轄してこれを処理する行政庁であるわけであるが、このばあい行政事件訴訟特例法第四条にいわゆる「行政庁の所在地」とは、これを本省の所在地たる東京都に制限するいわれなく、当該地方の事務に関する限り、農地事務局所在地もまた「行政庁の所在地」と解すべきものと信ずる。本件においていえば京都地方事務局の所在地たる京都市を土地管轄する京都地方裁判所も、すなわち本件の専属管轄裁判所である。農林大臣たる行政庁の所在地は本来的には東京都であり、京都市は延長的所在地と解すべきであるから、本件には東京地方裁判所と京都地方裁判所と二つの専属管轄裁判所があり、原告はそのいずれかを選択して訴を提起することができるものと信ずる。右のように、専属管轄について弾力ある解釈をすることは誤れる国家行政に対し批判救済を求め行政訴訟を提起する人民にとつても、その便宜に適することである。「行政庁の所在地」について、これを「東京都と読み替える」ことを強要することは、人民に対し事実上行政訴訟の途を塞ぎ、国家行政に対する批判救済の手段を奪い、旧憲法下における行政訴訟の制限を実力的に維持するに帰するのである。かかる態度が民主主義の精神に添わないことまことに明らかである。

別紙(二)

相手方指定代理人の主張 (一)

下記において補足するほか、昭和三二年附被告移送申立書記載のとおりである。

一、抗告人は、相手方が原決定裁判所に対し、管轄違の申立をなした事実は何等存しないにかかわらず、移送決定をなしたのは違法であると主張せられる(抗告の理由第二点)。しかしながら、被告のおこなつた管轄違の申立は、口頭弁論を経ることを要しないのであり、原決定は民事訴訟法第三〇条を適用して本件移送決定をなしたことは決定書の記載自体明白であるから、抗告人の此の点に関する主張は失当である。

二、抗告人は、本件訴訟は行政処分の無効確認を求める当事者訴訟であり、本案が「不動産に関する訴」たる性質を有するから原決定裁判所が管轄権を有すると主張せられる(抗告の理由第二点)。抗告人の本訴請求が、如何なる不動産に関し、如何なる直接間接の法律関係があるのかは訴状その他準備手続の経過に照し明確を欠くが、仮に積極に解するとしても、抗告人が本訴において農林大臣を被告として訴を提起している以上は、行政事件訴訟特例法第四条により、原決定裁判所には管轄権はない。(なお、抗告人引用の「有斐閣、行政事件訴訟特例法逐条研究」二五三条以下の所説(豊水)は、行政庁を被告とする限りは、行政庁の所在地にその普通裁判籍があり、その理論構成として、特例法第四条が適用されるのか準用されるのかを論じているに過ぎない。行政庁を被告とした場合に不動産所在地に管轄が生ずるということは出席者の何人も肯定していない。)

昭和三二年附被告移送申立書記載の理由

一、本件訴は、処分行政庁である被告農林大臣に対し、その請求の趣旨に明かな如く、第一次に被告のした行政処分の無効確認を、そして予備的にその取消を求められるのである。

本訴の予備的請求の行政処分の取消を求める訴すなわち、いわゆる抗告訴訟は、行政事件訴訟特例法(以下特例法と略称する)第四条の規定により、被告行政庁たる農林大臣の所在地である東京都を管轄する東京地方裁判所の専属管轄に属することは明白である。原告等は、「農林省設置法によつて、農林省に農地局を、またその地方支分部局として農地事務局が設置されているのであるが、農地事務局は農地局と同一内容の事務を処理しているものであり本省と別個に農地事務局を設置するのは、同一内容の事務でも、当該地方に関係する事務はその農地事務局において処理することが行政目的を達成するに適することを配慮したことによるものであるから、当該地方の事務に関する限りは、当該農地事務局の所在地もまた特例法第四条にいわゆる「行政庁の所在地」と解するべきである。そうだとすると、本件について言えば、農林大臣たる行政庁の所在地は本来的には東京都であるが、京都農地事務局の所在地たる京都市も、その延長的所在地と解すべく、したがつて、東京地方裁判所とともに京都地方裁判所もまた専属管轄裁判所である。よつて、御庁の管轄に属しないものとすれば、京都地方裁判所に移送を求める。」と主張されるもののようである。しかしながら、特例法第三条および第四条の規定の趣旨は、抗告訴訟における訴訟遂行上の便宜を考え、処分行政庁に当事者能力を認める一方、ことが公益に関することからこれを処分行政庁所在地の裁判所の専属管轄に属せしめたものであり、ここに「行政庁の所在地」とは現実に行政庁が置かれている地をいい、仮に原告等の主張される通り処分行政庁の地方支分部局がその行政庁と同一の内容の事務を処理し該処分が当該地方支分部局の事務に関するものであるとしても、その「行政庁の所在地」を原告等の主張されるように延長的に解する余地はないものと考える。なお、原告等は農地局と農地事務局は同一内容の事務を処理していると解しておられるようであるが、農地局と農地事務局の所掌事務はつぎのように異つている。すなわち、農地事務局は農林省の地方支分部局である関係上農地局所掌の個々の事務の一部を分掌しているものであり、概言すれば、農地局の所掌事務につき、その指示により調査報告、府県に対する指導等を分掌しているのである。本件の如き、国営土地改良事業計画の樹立に関する事務についてみれば、農地事務局は計画決定をするに必要な土地改良法上の諸手続の下審査および関係府県に対する指導等を行い、農地局は右諸手続の審査並びに計画決定案の作成をなし、農林大臣は右案件を検討の上計画決定たる行政処分をなすものである。したがつて、農地局と農地事務局が同一内容の事務を処理していることを前提とされる原告等の所論は失当である。

二、つぎに、本訴請求は、前述せる如く、処分行政庁を被告としてその処分の当然無効を主張しこれが確認を求められるのである。

特例法の各規定は、同法第一条にいう「取消又は変更にかかる訴訟」すなわち抗告訴訟には全面的に適用があるのであるが、「その他公法上の権利関係に関する訴訟」すなわち当事者訴訟には同法条の中、第八条の訴訟参加、第九条の職権による証拠調、第十条の確定判決の拘束力の三ケ条の規定のほかはその適用がないと解するのが通説である。そうすると、無効確認訴訟に特例法第四条の専属管轄の規定の適用乃至準用があるか否かということは、無効確認訴訟を抗告訴訟に属するとみるか当事者訴訟に属するとみるかによつて定まるわけであるが、通説および多数の裁判例は、行政処分の無効を主張しその効力を争う訴訟は確認訴訟であるとし当事者訴訟に属すると解しつつ、行政処分の無効確認を求める訴訟とその取消を求める訴訟とは、訴の対象とされる行政処分のかしの軽重により、判決確定の効果が前者にあつては確認的であるのに対し後者においては形成的である点に差違はあるが、行政処分の違法を主張してその効力の生じないことの確定を求める点においては両者は類似しているから、その訴訟手続面においては、その性質に反しない限り両者を同様に取扱うべきであると解しておられる。したがつて、特例法中の抗告訴訟に関する規定はその性質に反しない限り無効確認訴訟に準用されることになる。そうだとすると、特例法第四条の専属管轄の規定を本件第一次請求の無効確認訴訟に準用することが、その性質に反するか否かということがここに問題の焦点となる。本件訴訟の第一次の請求は、原告等の主張される如く、無効確認訴訟であり、判例は、本来は権利又は法律関係の帰属主体である国を被告にするべきであるが、実質的には行政処分の違法を攻撃してその効力のないことを確定させるという意味で抗告訴訟と類似性を有するから、それ故に処分行政庁を被告とすることができるとされるのである。すなわち、判例によれば、現在の権利関係の確認を求める本来の意味の無効確認訴訟においては権利又は法律関係の帰属主体たる国を被告とするべきであるが、抗告訴訟の変形と見られるものは被告を国とすることもまた処分行政庁とすることも許されると解されておられるようである。ところで、処分行政庁を被告として、行政処分の無効を主張しその効力のないことの確定を求める場合の無効確認訴訟とその取消を求める抗告訴訟とはその主張に処分の違法の軽重の差違はあるが行政処分自体の違法を攻撃する点においては同一であり、これが公益に関する点も同一であるべく、したがつて、処分行政庁を被告としてその処分の無効確認を求める訴、ことに本件の如く予備的に取消を併合して請求する訴には当然特例法第四条の専属管轄の規定が準用されると解するべきであると考える。

三、仮に、本件無効確認訴訟には、特例法第四条の専属管轄の規定はその適用がなく、民事訴訟法第十七条により、不動産に関する訴として不動産所在地の裁判所たる御庁に管轄権があるものとしても、本件は審理の遅滞を避けるため予備的請求の専属管轄裁判所たる東京地方裁判所に移送せられたい。そのわけは、原告等の本件請求のうち、無効確認を求められる点については御庁に管轄権があるとしても、取消を求める予備的請求については管轄権のないこと明白であるから、この点についての審判の必要が生ずれば、当然職権で管轄裁判所に移送せざるをえざるべく、かくては、御庁で審理を仰ぐときは結局訴訟の遅延を来すことになるからである。

別紙(三)

相手方指定代理人の主張 (二)

一、抗告人は、本件につき仮に行政事件訴訟特例法第四条の適用があるものとしても、本訴は、少くとも京都地方裁判所に移送さるべきであるとせられ、その理由として、本件のごとき土地改良事業に関しては、農林省農地局と農地事務局とは、同一内容の事務を所掌しているから、京都農地事務局の所在地たる京都市もまた被抗告人農林大臣の延長的所在地と解すべきであるとせられる。しかしながら、本件土地改良事業計画に関する、農林省農地局と農地事務局との事務内容は具体的にその分担を異にしているから、これを同一であるとせられる抗告人の主張は、まず、その前提を誤まるものである。

二、抗告人の指摘せられるように、農林省設置法上、土地改良本業に関し、農林省農地局と、農地事務局の所掌事務について全く同一の文言をもつて規定せられているが、その規定は、たとえば「土地改良事業の地区計画に関すること」(同法第九条第一項第五号同第三六条第四号)「国営の土地改良事業の実施に関すること」(同法第九条第一項第一一号、同第三六条第七号)等と規定されており、何れの部局が立案し、決定しあるいはこれを執行するか等具体的には明らかにせられていない。そこで農林省においては、大臣の補佐機関たる内局及び地方支分部局その他の具体的な事務分担を定め、農林省文書管理規則―昭和三三年一二月二〇日同省訓令第二七号をもつて、これについての決裁権者を明らかにしている。すなわち、同規則別表第1から第12までの専決事項に掲げる事項に関しては、これらの表の専決者欄に掲げる者が専決処理することができるとされ(同規則第四八条)、従てその専決者がその事項の事務を具体的に分掌し大臣を補佐することとなるのである。

三、抗告人が本訴において無効確認を求められる事業計画は、土地改良法第八七条による国営土地改良事業計画であるが、前記規則についてこの主管課及び専決権者をみるに、改良事業の適否の決定に関しては、もつぱら主管課は農地局管理課、計画の設定、変更に関しては主として技術課で、専決者は事務次官であり(同規則別表5の2、3参照)、土地改良法第八七条三項の規定による計画の設定または変更の公告に関する事務の主管課は農地局管理課で専決者が農地局長(同別表5の36参照)である。これに対し農地事務局においては、僅かに土地改良法第八七条第三項の規定による縦覧に関する事務のみを、同事務局管理課が主管し、農地事務局長が専決し得るに過ぎない(同別表12の42)。

四、以上のとおり、国営土地改良事業に関しては、その事務の分担は、いやしくも計画の設定変更に関する行政措置はすべて農地局における主管事項とせられており、農地事務局においては、計画の執行行為の一部たる縦覧事務のみを所掌するに過ぎない。本件においても、京都農地事務局においては、計画に関し、農林省の指示により、事実調査及び工事の実施等の事実行為をなした事実は存するが、抗告人の本訴において無効確認を求められる事業計画の決定については、何等その権限を有しない。従て京都地方裁判所にも本件の管轄が存するという抗告人の主張もまた失当である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例